こすぎ法務ジャーナル No.9

2012年6月11日 発行

ワンポイントアドバイス

今回は,企業法務特有の問題ではありませんが,「債権債務関係の発生」,「契約の成立」といったことについて,そもそもどういうことなの?法律ではどのようなルールが定められているの?といった基本的な視点に立ち戻って,少し勉強してみたいと思います。

債権債務関係の発生

債権とは,ある者が特定の者に対して一定の行為を請求することができる権利などと言われ,例えば,

  • ①交通事故で受けた損害の賠償を請求する権利,
  • ②不動産からの立退を要求する権利,
  • ③従業員に対して業務を行うよう要求する権利,

これら全てが債権です。
債務とは,その裏返しで,ある者が他の者に対して一定の行為をすること又はしないこと(不作為)を内容とする義務(又はそのような拘束を受けた債務者の地位),などと言われます。
これら債権債務が発生する原因というのは,大きく分けて,契約によるものと,それ以外の原因によるものがあります。
上記の例でいえば,③は従業員と会社との雇用契約を原因とする債権であり,①は交通事故という契約ではない事実関係が生じたことを原因とする債権です。②はやや難しく,大家から借主への要求であれば,賃貸借契約という契約を原因とするものになるでしょうし,自分の家に見知らぬ人が居座っている場合に,その人を追い出すのであれば,契約外の事実関係によるものとなるでしょう。
このように,債権債務関係が発生する原因といっても,様々です。
契約以外の原因によるものは,さらに分類すると,不法行為(民法709条),不当利得(同法703条),事務管理(697条)といった種類があり,身分関係も含めて考えると,相続や離婚といったやはり契約ではない事実関係から生じるものが考えられますが,この点の勉強はまたの機会として,以下では,契約による債権債務の発生について見ていきましょう。

契約の成立

「契約」はどのように成立するのだと思いますか。
例えば,洋服屋さんで,1,000円の値札がついている洋服1着を買おうと決め,レジに差し出したところ,お店の人は,値札のバーコードを読み取って,「1,000円になります。」と言いました。客は1,000円札1枚を渡し,お店の人は,レシートを客に渡しました。
以上の買い物をしたとして,契約が成立したのはどの時点でしょうか。
まずそもそも,今回,契約書などの書面は一切作成されていません。レシートが発行されただけです。これでは,そもそも契約書がない以上,契約は成立していない,といった考え方はどうでしょうか。
そんなことはありません。契約の成立には,法律上,必ず書面の作成が要求されるというルールはありませんので,上記のような口頭のやり取りでも契約は成立しています(保証契約,定期借家契約等一部の契約では書面作成が要求されます。)。
では,契約成立は,

  • ア客が洋服をレジに差し出した時点,
  • イお店の人が,「1,000円になります。」と言った時点,
  • ウレシートが発行され,客がそれを受け取った時点,
  • エそれ以外,

どの時点でしょうか。

考え方から述べておくと,契約成立には,(契約の)申込とそれに対する承諾が必要であり,承諾があった時点で契約が成立します。
そうすると,契約成立は,イでしょうか,アでしょうか。
イは,客がレジに商品を差し出したこと(買いたいという申込)に対して,お店がそれに応じて代金を案内している(申込を承諾したといえる)ので,この時点で成立と言えそうです。
ところが,考えようによっては,アも,お店が値札で1,000円と表記している(1,000円で売りたいという申込?)のであるから,それに対して商品をレジに差し出す(値札の申込に対して承諾)ことで契約成立,と言えそうな気がします。
結論ですが,この場合,法律実務の多数説は,イの時点で成立と考えます。
アについて,1,000円の値札表記をすることは,例えば,値札どおりではない減額交渉の余地があるのではないか,お店に在庫がないかもしれない,などといったことから,単に不特定多数の客への広告的なものと考え,それ自体を申込とはとらえず,客からの「買いたい」という申込を誘発する行為と考える見解が多いでしょう。
ちなみに,ウの代金支払,レシートの発行は,契約成立後の代金支払という債権を実行した場面ということになりますね。


このように,事実関係を法律効果の面から分析した場合,僅かな事実の違いが,法律効果発生の内容や時点に大きな違いとなることがあります。
我々弁護士が,法律相談の際,細かい事実をしつこく聞きたがるのは,こういった理由によるところもあるのです。また,上記事例のような些細な,あいまいな事実関係に振り回されることのないよう,重要な法律行為には,契約書などの書面作成が欠かせないことになります。
日常の意識しない一つ一つの行為が,実は色々な法律行為に該当している,ということの紹介でした。頭の体操になりましたでしょうか。


編集後記

自宅のベランダで,冬からビニール栽培をしていた人参が採れました。土の下で育つ野菜は,引き抜くその瞬間まで,出来栄えが分からないその緊張感が醍醐味ですね。収穫した後は,ナムルなどにして美味しく頂きました。(川瀬)

こすぎ法律事務所

弁護士 北村 亮典
弁護士 石坂 想
弁護士 川瀬 典宏

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