こすぎ法務ジャーナル No.6

2012年3月14日 発行

ワンポイントアドバイス

能力不足を理由とする解雇は

従業員を解雇するには,解雇について合理的な理由があり,社会通念上相当であることが必要であることは,ご存知のとおりです。
さて,履歴書の記載等採用時の情報から,一定の業務能力が見込まれると考えて採用したところ,勤務成績が著しく悪く,採用時の予想と異なっていたという場合,会社として解雇に踏み切ることはできるのでしょうか。
多くの就業規則では,解雇事由として,「業務能力が低劣で,または勤務成績が著しく不良で,就業に適しないと認められたとき」などというような条項が存在することが一般的です。
しかし,このような条項は,抽象的な基準を定めたものに過ぎず,結局のところ,冒頭で述べたとおり,当該ケースにおいて解雇という判断をするにあたり,合理的な理由があるか,社会通念上相当であるかによって判断が分かれることとなります。


裁判例などから,いくつかのケースを考えてみましょう
1. セガ・エンタープライゼズ事件―東京地裁平成11.10.15決定

複数の従業員が業務を行う環境において,当該複数人の中で成績が平均に満たない,下位であることは,解雇についての合理的な理由となるでしょうか。
答えは「ならない」と考えるべきでしょう。勿論ケースによりますが,「平均に満たない,下位である」といのは,そもそもそのグループ内での相対評価に過ぎません。
そのグループが偶然にも優秀な人材の集まりであれば,下位にいる本人は,絶対評価として劣っているわけではなく,別のグループに配属されれば,もしかすると平均以上の成績を上げるかもしれないわけですから,このような相対評価だけでは,合理的な理由とは言えないわけです(セガ・エンタープライゼズ事件―東京地裁平成11.10.15決定)。

2. フォード自動車事件―東京高裁昭和59.3.30判決,ヒロセ電機事件―東京地裁平成14.10.22判決

即戦力として見込んで重要ポストに置くことを念頭に,中途採用した人物についてはどうでしょうか。
このような場合,採用する側は,当該ポストに見合った知識・経験を当該人物に期待し,代替性の利かない地位を与え,それに見合った待遇を用意した一方,採用される側も,当該ポストに就けること,高待遇であることを条件に,雇用されることを決めたわけです。ですから,通常の学卒従業員の場合や,上記1の場合とは異なり,他の従業員との比較などはあまり考える必要はないと言っていいのではないでしょうか。
ケースバイケースにはなりますが,実際の裁判例でも,上記1や通常の場合に,解雇の判断において要求されるような,教育訓練の有無や配置転換といったことはあまり問題にせず,当該人物の実際に業務能力や勤務態度が,当該ポスト,待遇に相応しいものであった否かによって,比較的緩やかに解雇を認める傾向にあります(フォード自動車事件―東京高裁昭和59.3.30判決,ヒロセ電機事件―東京地裁平成14.10.22判決)。

3. 試用期間中に,能力不足を理由に解雇する場合

試用期間中に,能力不足を理由に解雇する場合はどうでしょうか。
試用期間は,採用手続における調査だけでは,労働者の資質・能力等の情報を十分に収集できないとして,実際の就労状況を観察することで採用の最終決定を行うとの,労働者の不適格性を理由とする解除権の留保期間として考えられていますので,能力不足による解雇は,本採用後の場合と比べて当然緩やかに解されます。
もっとも,期間中の解雇・本採用拒否に,合理的な理由や社会通念上の相当性が一切必要ないわけではありませんし,試用期間が14日を超えているときにには,解雇予告の規定の適用もあるので注意が必要です。

4. 履歴書等での経歴・学歴等の詐称

また,履歴書等での経歴・学歴等の詐称についても,詐称=能力不足ではありませんので,詐称があったからといっても,解雇が無効となることもあります。その詐称事項が,能力評価に影響を与えるものか,具体的に判断しなければなりません。


ここまでに検討したことの他にも,過去に注意や反省の機会を与えたことはないのか,配置転換は可能でなかったのか,能力・適性についての回復・向上のため訓練をおこなったのか,他の従業員との扱いにおいて,解雇が不平等とは言えないかなど,種々の要素について配慮しておくことが必要です。
ところが,注意や指導,作業訓練などは,口頭で行われることも多く,記録に残っていないことがままあるようです。他の労働問題と同様,争いが生じてから,過去の事実に関する証拠を作出することは困難ですので,作業日報などに,一言だけでも,書き留めておくことが肝要ではないでしょうか。

編集後記

連少し前から園芸を趣味にしている私ですが,最近になって,貸し農園を本格的に検討しています。今までは,駐車場の面積で月2万とか3万の時代なんだから,どうせ無理,と調べもしないでいましたが,つい先日調べてみると,20~30㎡で年間2~3万円とのこと。これは借りない手はないと,ここ数日は興奮が収まりません。妻も,ベランダがジャングルになるくらいなら,いっそのことどうぞ,と予想を裏切る良い反応です。麦わら帽子の手放せない夏になるかもしれません。

こすぎ法律事務所

弁護士 北村 亮典
弁護士 石坂 想
弁護士 川瀬 典宏

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