こすぎ法務ジャーナル No.5

2012年2月9日 発行

ワンポイントアドバイス

接待ゴルフの悲劇

事案

小杉さんは,取引先の若社長の中原さんやその仲間と一緒にゴルフに出かけました。小杉さんはゴルフ歴20年,シングルの腕前です。一方,中原さんはゴルフを始めたばかりで,コースに出たことも数えるほどしかありませんでした。そのため,小杉さんは,中原さんやその仲間に時折アドバイスをしながら,プレイしていました。
最終ホール(パー4)での出来事です。
小杉さんは第2打で見事グリーンに乗せました。ピンまではおよそ2ヤード。小杉さんはグリーンの感触を掴もうと,グリーンの隅でパターの練習をしていました。
小杉さんの後に打つ中原さんは,アプローチショットの準備をしていましたが,小杉さんがグリーンからなかなか出ないので,出るように合図をしました。すると,小杉さんが手を挙げてこれに応えたため,中原さんは安心し,ショットを行いました。もっとも,初心者の中原さんは一度ダフってしまい,もう一度長めの間合いを取ってショットをやり直しました。
小杉さんは,中原さんがダフったのを見て,もう一度,グリーンに戻り,中原さんの友人にアドバイスをしていました。
そこに中原さんの打ったボールが飛んできて,小杉さんの目に命中し,小杉さんは失明してしまいました。
後日,小杉さんは,治療費や慰謝料等の支払いを求め,中原さんを訴えることにしました。
(東京地裁平成3年9月26日判決を参考にした事例)


解説
1. ゴルフ事故の過失

接待ゴルフは最近少なくなっていると聞きますが、会社経営者の方は取引先とゴルフに行く機会も多いのではないでしょうか。
ゴルフは「メンタルのスポーツだ」とか言われますし,激しい動きがないことから安全なイメージがあります。しかし,硬い球を思いっきり飛ばすわけですから,事故が起きた場合には,取り返しのつかない結果になる可能性もあります。ある意味では最も危険な球技と言うこともできるかもしれません。
このような事故の場合,まず,加害者の側に過失(注意義務違反)があったか,ということが問題となります。「○○という行動を取るべきであったのに怠った」「そのためにこのような結果が発生してしまった」ということで損害賠償を請求するわけです。
過失については,抽象的に決まるものではありません(本件で「ボールを打たなければよかった」などと言われても困りますよね)。その場の状況に即して,具体的にこうすべきであったし,それは可能だった,という場合に,はじめて過失が認められるということになります。
本件の元となった事案では,アプローチショットをするに当たって,先行するプレイヤーの動静に注意せずにショットをしたことに過失があるという判断がなされました。

2. 過失相殺

もっとも,このような事故の場合,被害者のほうも危険を避ける義務を怠った過失があるとされて,損害賠償額が減額されることがあります。
本件では,被害者が,合図があったにも関わらず,グリーン上にとどまっており,後続の人の行動に注意しなかった点に過失があるとされました。
基本的マナーを守っていない場合には,被害者側に,より大きな過失が認められてしまう場合もあります。ショットをした加害者よりも前に出ていたために頭にボールが激突したという事案では,被害者に6割の過失があるとされました。

3. 危険受忍の法理

本件の元となった判例で,被告側は,「危険受忍の法理」という主張もしています。ゴルフは固いボールをクラブで飛ばす競技であり,ボールが身体に当たるといった通常予測される危険には同意しているというべきである,という主張です。
本件では,この主張は認められませんでしたが,スポーツをプレイする以上,そのスポーツに内在する危険は想定しておかなければならないという主張には頷けるところもあります。


ゴルフに限りませんが,基本的なルールやマナーを守ることが,事故そのものの防止はもちろん,万一事故が起きた場合の不利益を防止することにもつながる,と言えそうです。

編集後記

連日厳しい寒さが続いていますが,皆様いかがお過ごしでしょうか。
私は,寒さに非常に弱いので(と言いながら仙台に1年間住んでいたこともありますが),毎日ツライです。特に足元が…薄くて暖かい靴下を探していますが,なかなか気にいったものが見つかりません。

こすぎ法律事務所

弁護士 北村 亮典
弁護士 石坂 想
弁護士 川瀬 典宏

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