こすぎ法務ジャーナル No.3

2011年12月8日 発行

ワンポイントアドバイス

残業代請求が予想される退職者に対し、一定額の解決金の支払と引き換えに、ハローワークへの離職理由の判定申請の取り下げを求めた事例

概要

紙製品や文具用品の製造販売を行うA社は、製造部門の工場で働く従業員への残業代をほとんど支払わず、月50時間以上の時間外労働が常態化していました。
従業員のXは、上記のような会社の体質に不満を訴え、自ら退職を申し出たため、A社もこれを認め、離職理由を一身上の都合として、Xは退職しました。
Xは、退職時には、残業代の請求や、離職理由について会社と争う意思を有していませんでしたが、失業保険受給のため訪れたハローワークにおいて、退職前3か月間の残業時間を聞かれ、それが月45時間を超えていたため、ハローワークから促されて、離職理由を不服とした判定申請を行い、ハローワークからA社に実態の調査がなされました。
A社は、離職理由の問題はさておき、これを機に、残業代に関して、労働基準監督署への申告や、裁判手続に発展することは好ましくなく、未払いについては、当然会社に責任があるとして、弁護士に依頼してXとの話し合いに臨み、結果、会社から一定の解決金を支払うのと引き換えに、ハローワークへの離職理由の判定申請を取り下げるとの約束で合意し、残業代を含めた問題を一括して解決できるに至りました。

解説

失業保険の受給資格における、特定受給資格者(給付内容が優遇されます)に該当するか否かの条件には、「離職の直前3か月間に連続して労働基準法に基づき定める基準に規定する時間(各月45時間)を超える時間外労働が行われたため、又は事業主が危険若しくは健康障害の生ずるおそれがある旨を行政機関から指摘されたにもかかわらず、事業所において当該危険若しくは健康障害を防止するために必要な措置を講じなかったため離職した者」というものがあります。この該当性については、上記で定める時間を超える時間外労働の存在さえあれば、容易に認定されてしまう実情にあるので、注意が必要です。

上記の事案では、勤続年数等から、特定受給資格者と判断されたところで、給付日数で差は生じませんでしたが、受給開始時期(給付制限)に差が出ることになります。

既婚者であったXにとって、収入が途切れることは重大な問題であるため、ハローワーク担当者から促されて、「受給開始時期が早まるなら」と考え、申請を行うことにしました。

一方,ハローワークの調査の結果、Xが特定受給資格者と判定されること自体、A社に何か不利益が生じることはありませんでしたが、A社が離職理由を争った結果、Xが労基署などへ相談することとなり、時間外労働に関する是正勧告や、過去に遡った残業代の請求を受けることとなれば,A社にとっては,あまり都合のよいものではありません。特に、A社が今後,雇用関係の助成金申請を控えているなどといった場合には、申請手続への影響も懸念されるものであり,さらなる経済的損失を伴う虞もあります。

そこでA社は、弁護士と相談し、実際にXとの面談も行い、Xの意向を確認したうえで、Xの今後の生活に配慮した内容の合意書を取り付けることとしました。合意の内容は、

  • A社が、Xに対して数か月分の残業代を支払う
  • 支払時期は、失業保険の給付制限期間(3か月間)のXの生活に配慮して、当月から3か月間、3回に分けて毎月支払う
  • Xは初回の支払確認後、すぐに、ハローワークに取り下げを行う
  • A社は、残されたA社の従業員のため、職場環境の改善に努力する

といったものです。

これにより、A社は、最小限の損失で、残りの残業代支払義務を免れ、その他是正勧告等のおそれも回避できることとなりました。


残業代の問題は、ややもすると、従業員一人の問題ではなく、それをきっかけとして他の従業員へと波及し、大きな経済的損失を伴う事件へと発展しかねません。平時からの労働時間の管理が最も重要ですが、問題発生後も、できる限り早い段階での対応が重要です。

編集後記

幼児のいる我が家では、秋から冬にかけてはインフルエンザもあり、娘の体調管理に戦々恐々です。蓋を開けてみると、心配している親のほうが、子から移された風邪で寝込んでいる、というのがありがちなオチですが。 皆様も体調にはお気を付け下さい。

こすぎ法律事務所

弁護士 北村 亮典
弁護士 石坂 想
弁護士 川瀬 典宏

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