こすぎ法務ジャーナル No.13

2012年10月9日 発行

ワンポイントアドバイス

会社の元従業員による、取引先・従業員の引抜行為への対処法

会社に勤めていた営業部長が退職して間もなく、「同業他社に転職して我社の取引先に取引先を変更するよう持ちかけている」、とか「新会社を設立して、我社の従業員を引き抜いている」という場合、会社としては大きな損失を被りかねない事態となります。
そこで、会社側として、このような引抜行為等を防止するために最低限しておかなければならないこと、その際に気をつけるべきポイントについて説明します。

退臓した従業員が同業他社に就職すること、開業の開業をすることは防げるか

せっかく手塩にかけて育てた優秀な人材が、転職して同業他社に移ってしまうということは、自社の優秀な人材を失うのみならず、競合他社に対して大きな戦力を与えることになり、自社にとっては二重の損失を被る事態と言えます。したがって、会社側の本音としてはできれば避けたい、そのために手段を尽くしておきたい、というところではないでしょうか。
しかし、憲法で「職業選択の自由」が認められていますので、原則として、従業員は「退職後は何をしてもよい。」ということになっていますので会社が何も手段を講じていなければ従業員は自由に転職ができます。
したがって、退職後の従業員の同業他社への転職を制限するためには、

  • ①就業規則で、転職の制限について定めておく
  • ②同業他社への転職をしないという「誓約書」などを従業員から取り付けておく

のいずれかの手段を講じておく必要があります。
そして、このように、同業他社への転職を制限しておけば、取引先や従業員の引抜行為も防止することができます。
もっとも、期間も場所も無制限で単に「同業他社への転職は禁止」という内容では、先程述べたように憲法の「職業選択の自由」と抵触してしまい、後で裁判を起こされると無効とされてしまいます。以下、気をつけるべきポイントを説明します。

就業規則等で防止する場合に気をつ付るべきポイント

では、就業規則等で従業員の同業他社への転職を防ぐには、どのようなポイントに気をつけて定めれば良いのでしょうか。
裁判所の傾向では以下の3点に気をつける必要があるとされています。

  • ①競業避止を必要とする正当な理由の存在
  • ②競業が禁止される期間、地域、対象が合理的範囲にとどまっていること
  • ③代償措置の有無

具体的に見ていきますと、
①の点は、会社に保護すべきノウハウがあるか、ノウハウに接する機会のある従業員であったか、という点が考慮されます。特に、その従業員が営業秘密に接する地位であったか、顧客等との人的関係を築く業務にあったかどうか、という点が重要で、それ以外のいわゆる末端の従業員に対しても競業避止義務を課すような規則は無効と判断される可能性が高いです。
②の点は、特に問題となるのは、転職禁止の期間で、2年を超えるとその就業規則等が無効と判断される可能性が高いというのが裁判実務です。
③の点は、退職後の競業避止に見合うような形の金銭(在職中の報酬額、退職金等)の交付等があったかどうか、という点が考慮されます。
その他、就業規則で、「競業避止義務に違反した場合には退職金を没収するJという定めをする場合もありますが、「全額没収」という規定は無効とされる可能性がありますので、違反の程度・背信性の程度によって金額を変動させられるような規定にしておくのが良いでしょう。裁判実務では、退職金の半額の没収が認められているのが一般的傾向です。


まとめ
  • 従業員の秘密保持、競業避止義務については就業規則、誓約書等で明確にすることにより、従業員の意識を高めて予め予防することが必要です。
  • これらの誓約書については、入社時と退社時に差し出させることがベストですが、退社時に差し出させる場合は自由意思に反しない形で差し出させるよう留意すべきです。
  • 就業規則で定める場合、違反した場合の懲戒処分(特に退職金の減額)に明言することは抑止効果を図る上でも必須です。
  • 競業避止の中身としては、広義(取引先に接触しない、従業員の引抜きもしなし、)と言うところまで細かく規定しておくべきです。

編集後記

9月になっても気温が下がらず厳しい残暑が続いていましたが、10月になりようやく過ごしやすい季節となってきました。季節の変わり目は体調を崩しやすいので皆様体調管理にはお気をつけ下さい。また、「食欲の秋」ということで、食が進む季節でもありますので、体重管理にも気をつけたいと思います。

こすぎ法律事務所

弁護士 北村 亮典
弁護士 石坂 想
弁護士 川瀬 典宏

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