こすぎ法務ジャーナル No.11

2012年8月27日 発行

ワンポイントアドバイス

今回は,ある人が負債を残して亡くなってしまった場合の相続についてです。
儲かっている企業経営者の方には,あまり関係のないお話かとは思いますが,相続税対策の合間にでも お読みいただければ幸いです。

あなたの知らない限定承認の世界

相続の種類(態様)

ある人が亡くなった場合,相続人がいれば,相続が開始されます。
相続が開始しますと, 相続人は, 亡くなった方(被相続人といいます)に属した一切の権利・義務を引き継ぎます。
しかし,この義務には,借金といったマイナスの財産(債務)も含まれます。被相続人が亡くなった場合に相続人は必ず相続をしなければならないとすると,借金ばかり残されていたような場合には,相続人はたまったものではありません。
そこで,民法は,相続人に,いったん発生した相続の効果を承認するか放棄するかの自由を認めることにしています。
相続の方法は,次の3種類です。

  • ①単純承認
    プラスの財産とマイナスの債務の両方を,文字通り単純に相続することです。
  • ②相続放棄
    財産も債務も,相続しないことです。
  • ③限定承認
    相続はするが,プラスの財産の範囲内でのみ債務を返済する責任を負うことです。
    分かりやすくいいますと,
    • 遺産>債務の場合→遺産一債務で,残った財産を相続する
    • 遺産<債務の場合→遺産一債務で,残った債務の免除を受ける

    ということになります。

今回は,このマイナーな限定承認にスポットを当てたいと思います。

限定承認、をしたほうがいい場合

どのような場合に限定承認を検討すべきかというと,相続財産の合計がマイナスである可能性がある程度高いことに加え,以下のような事情がある場合は,限定承認を検討するメリットがあると言われています。

相続放棄して次の順位の相続人に迷惑をかけることを避けたい場合

例えば,夫が亡くなって,妻と子どもが相続放棄をすると,次は夫の両親,そして次は夫の兄弟・・・と相続人が変わっていくことになります。こうなると,相続人となり得る人みんなが相続放棄の手続をとらないといけませんので,親戚一同から白い目で見られることにもなりかねません。限定承認をすれば,次の順位の相続人にとばっちりがいくことはありません。

被相続人の財産のうち一部だけを承継したい場合

限定承認をした場合,財産は,基本的に競売によって換価することとされています。ただ, 先買権という特別な制度があり,相続人は,正当な対価を支払えば,競売を止めて財産を買い取ることができます。つまり,借金を全て支払う余裕はないが,遺産の中にどうしても欲しい不動産(自宅の持分とか)があって,その対価分くらいなら何とかなりそう・・・という場合には,その財産だけを確実に手に入れることができるのです。これは,限定承認にしかない制度です。

限定承認するかしないかはいつまでに決めるか

限定承認または相続放棄をするためには, 「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」という制約があります(熟慮期間といいます)。この間に相続放棄か限定承認をしないと,単純承認したことになります。
熟慮期間は,家庭裁判所への申立てによって伸長することが可能です。3か月は長いようで短いですし,次から次へと債務が発見されることもあります。どうしょうか迷ったら熟慮期間の延長を申し立てるほうがよいでしょう。そういうお店と違って延長料金も取られませんし。
また,遺産を売却したりすると単純承認したとみなされて,限定承認も相続放棄もできなくなってしまいます。これは考えてみれば当然のことで,遺産の一部を売却してカネにしておきながら「借金?んじゃ放棄します!」というのは無理ですよね。相続の態様が決まるまで,遺産には手をつけないようにしましょう。


まとめ 「迷ったら熟慮期間の延長!」「触らぬ遺産にたたりなし!」

限定承認という手続はその手続の煩雑さから殆ど利用されていないのが現状ですが,うまく活用できるケースもあります。法律面と税務面を考慮しつつ,メリットデメリットを検討できるとよいですね。

編集後記

スペインの小さな教会の,キリストを描いたフレスコ画が) 80代の女性によって「修復されて,かなり違った姿に変貌してしまったようですね。ただ,あの絵に著作権がある場合,著作権者は修復した女性になるはずです。画像を使う際は女性に連絡したほうがよし、かも・・・

こすぎ法律事務所

弁護士 北村 亮典
弁護士 石坂 想
弁護士 川瀬 典宏

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