こすぎ法務ジャーナル No.10

2012年7月20日 発行

ワンポイントアドバイス

従業員が突然精神異常となり、会社側の理解し難い理由で欠勤などを繰り返すようになった場合に、会社は即解雇ができるのでしょうか。最近、このような場合に、簡単には解雇できないとした最高裁判所の判例が出ましたので、今回はその裁判例の事案と判決内容の紹介をします。

会社の人事担当者からの質問

会社で働いている従業員が、突然、被害妄想など何らかの精神的な不調を患い,

  • 「約3年間に渡り、えたいの知れない集団から私のことが盗撮や盗聴をされ、日常生活を監視されている。」
  • 「このような盗撮・盗聴によって蓄積された情報を持つ集団が、職場の同僚らに私の情報をほのめかしている。」
  • 「私の情報を知った同僚らの嫌がらせにより自らの業務に支障が生じている。」
  • 「このままでは私に関する情報が外部に漏えいされる危険もあるので、会社も私の被害を調査して欲しい。」
  • 「納得した結果が得られない限りは会社には出勤しません。」

と言い出し、有給休暇を全て取得して休み、さらに、その後約40日間欠勤を続けています。
この従業員が言っていることは会社の誰もが理解できず、どう見ても精神状態が異常です。会社からの出勤要請にも今後応じてもらえる見込みがありません。
したがって、会社としては、正当な理由なく欠勤を繰り返しているとして解雇することを考えています。
解雇は認められるでしょうか。

回答

これは、最高裁判所平成24年4月24日判決の事例です。
この事例では、会社側は、従業員について就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤があったとの理由で諭旨退職の懲戒処分としました。
これに対して、従業員側は、解雇は無効であると主張して裁判で争ったのです。
結論から言えば、この事例では、最高裁判所は会社側の主張を退け、従業員側の主張を認めて解雇を無効と判断しました。

最高裁判所の判決理由を簡単にまとめると以下の通りになります。

  • ①このような精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては,精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想される
  • ②したがって、会社側としては,その欠勤の原因や経緯が上記のとおりである以上,精神科医による健康診断を実施するなどした上で(会社の就業規則には,必要と認めるときに従業員に対し臨時に健康診断を行うことができる旨の定めがある場合は特に。),その診断結果等に応じて,必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し,その後の経過を見るなどの対応を採るべきである。
  • ③上記のような対応を採ることなく,従業員の出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであることから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは,精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難い。

以上の理由で、裁判所は、会社の行った解雇を無効としました。
要するに、従業員が突然精神病を発症して会社に来なくなってしまった場合であっても、会社側としては、直ちに解雇してしまうのではなく、「君は精神がちょっと病んでしまっているようだから、まずは急いで精神科を受診してきなさい。」と精神科への受診を勧め、その診断結果を見て、治療が可能ならば休職等の処分をして治療をすすめるなどして経過を観察した上で、解雇等の処分を検討しなさい、ということになります。


これはこれでもっともな話ではありますが、実際に事が生じた場合に同じような対応を会社が採るというのは酷なような気がします。
特に、精神異常が疑われる従業員に対して「精神病院にいけ。」ということは相当気まずさを伴うことですし、本人が自覚していない場合はなおさらでしょう。


なお、この裁判例の事案は、従業員が多数いる大企業の事案のようですので、このような従業員が多数いる会社であるならばともかく、少人数で切り盛りするような小さな企業の実情に鑑みれば、小さな会社にはこの裁判例の言うような措置を全て採ることまでは必要ないものと思われます。


編集後記

いつの間にか梅雨もあけて、夏本番の暑さがやって来ました。神奈川県内の裁判所は駅から多少歩く場所にあることが多いので、この時期は裁判所に行くのも辛いですが、暑さに負けずに頑張って行きたいと思います。

こすぎ法律事務所

弁護士 北村 亮典
弁護士 石坂 想
弁護士 川瀬 典宏

このページのトップへ